「アイデアソン」とは、企業が直面する具体的な課題に対して、短時間で多くのアイデアを生み出し、それを具体的なアクションにつなげることを目的とした、組織横断的な協働イベントの一種です。名前の通り ideation(アイデア創出)と marathon/thon(長時間のイベント的性質)を組み合わせた造語であり、通常は design thinking やイノベーション・プロセスの枠組みのなかで実施されます。
ビジネスの世界での意味は大きく二つあります。第一に、戦略的な成長機会の探索と検証の加速です。課題に対する多様な仮説を短時間で洗い出し、顧客のニーズ、市場規模、競争環境、実現可能性、収益性といった観点から評価することで、従来の会議よりもはるかに速く実現可能性の高いアイデアのプールを確保します。第二に、組織の学習と文化の醸成です。クロスファンクショナルなメンバーが対話し、距離のある部門間のサイロを崩し、創造的思考と実行への連携を促進します。
アイデアソンの典型的特徴は、課題の明確な定義、時間を制約したセッション、ファシリテーションの介在、参加者の多様性と心理的安全、アイデアを具体的なコンセプトへと絞り込むための評価と絞り込みのプロセスです。進め方は地域や組織によって異なるものの、課題の定義から始まり、発散的思考でアイデアを広げ、次に収斂的思考で実現性や影響の大きさを評価し、最終的に優先度の高いアイデアを選定して、プロトタイプや検証計画への橋渡しを行います。
実施における典型的なアウトプットとしては、具体的なアイデアのバックログ、各アイデアの顧客価値提案、ターゲットセグメント、想定される収益モデルやコスト構造、リスクと前提、次のアクションプランや責任者、場合によっては初期プロトタイプの仕様や検証指標といったものが挙げられます。これらは後続のイノベーションパイプラインや事業計画、パイロットの実施計画へと繋がり、実現可能性の高いものを組織全体で優先的に推進するための判断材料となります。
アイデアソンを成功させるためには、明確な問題定義と成功指標の共有、参加者の適切な組成とファシリテーションが欠かせません。心理的安全を確保し、批判の禁止や量より質の発散を促すルール設定、アイデアを可視化して記録する仕組み、アイデアの評価を透明に行う意思決定プロセスが重要です。さらに、現場での実行可能性を見極めるためのリソースの現実的な見積もりや、データの取り扱いに関する同意と知財の整理も留意すべき点です。
アイデアソンは一回限りのイベントとして終わるのではなく、組織のイノベーション戦略の一部として位置づけることが重要です。イベント後のフォローアップ体制を確立し、アイデアをパイロットへと落とし込み、学習を組織の知識として蓄積する仕組みを設けます。これにより新規事業の探索やデジタル変革、顧客体験の再設計などの長期的な成長機会を創出するエンジンとして機能します。
アイデアソンはハッカソンと似ていますが、主な焦点がアイデアの創出とコンセプトの成熟にあり、実際のソフトウェアやハードウェアの完成品を短時間で作ることを必須としない点が異なります。時間軸は一日程度から長い場合は二日以上とするケースもありますが、技術的な完成物を狙う場とは区別されることが多いです。デザイン思考やビジネスモデルキャンバスと結びつけることで、顧客価値の仮説を検証するための具体的なロードマップを描きやすくなります。
評価指標としては、アイデアの数だけでなく、質の高いアイデアの割合、検証の進捗状況、パイロットに進む割合、組織内の参加度と学習効果、投資対効果の初期指標などを総合的に見ることが推奨されます。短期的な成果だけではなく、長期的な組織の学習と変革の推進という観点で評価することが重要です。
このようにアイデアソンは、組織の創造性を引き出し、新規価値提案の開発やサービス設計、さらには組織づくりとしてのイノベーション文化の定着に寄与します。適切に設計・運用すれば、課題解決につながるアイデアの生成だけでなく、関係部門の協働と意思決定の迅速化、顧客の声を戦略に組み込む力を高めることが可能です。
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